第42章 霞が明けて、八雲は起きる
その時—— グゥ……と間の抜けた音が俺達を包み込んだ。
これはまた…何と言う頃合いの良さなのか。
「…………」
「…………ふっ……」
耐えきれなくなった俺の体が静かに震える。すまん、七瀬!だが笑いを堪えるのが今は大変に難しい!
「すみません、安心したらお腹すいちゃいました……さっきカステラは長友さんから頂いたんですけど……」
「いや、構わない。俺もまだ食べている途中だった。行こう」
まだ抱きしめていたかったのだが、彼女の腹が減っているならば今は食事が先だ。
「俺も君と同じ思いだぞ」
「え?」
見上げた七瀬の唇へ、口付けを一つ降らしてやる。
「実はまだ君を離したくない。また三日後にな……君の元に必ず戻る」
「はい」
ポン、と頭に一回掌をが乗せた後は二人で客間へと向かう。
★
「ただいま戻りました。また勝負しようって伝えたら手加減しないよ…ですって」
さつまいもの甘露煮を食べている俺の隣に腰掛け、私も頂きます…と言った後に彼女は取り皿に取る。
「んー美味しい!今日は千寿郎くんが作ったんですよ。私じゃまだこの味が出せなくて……って聞いてます?杏寿郎さん」
先程の七瀬と時透は何の事はない、普通の会話をしていたのだろう。しかし、俺はどうも恋人が自分以外の男と楽しそうに話す姿を見るのは気分が良くない。
「きょ…」
「七瀬」
む…声が同時に重なってしまったな。すると彼女がどうぞ…と右手をこちらに向けて発言を促してくれた。
「やはり時透は…」
「ないです。絶対に」
むむ! 言葉を遮られてしまった…。話を最後まで聞いてくれる七瀬がこのような行動をするとは、珍しい。
「……そうか?」
「はい。気になる異性に倒しがいがあるなんて言いませんよ」
確かにそうだ! 七瀬と試合をするのは好きだが、倒しがいがあるなど思わない。