第42章 霞が明けて、八雲は起きる
「先程言い忘れた事があるのだが、良いか?」
「何でしょうか……」
「以前言ってくれたな。俺のようになりたい、と」
彼女の首が一度縦に振るのを確認した後、言葉を続ける。
「それはとても有難いし、嬉しい。だが君は君だ。自分にしか出来ない、自分だから出来る事も見つけていってほしい」
「私に出来る事……ですか」
「ああ」
七瀬にしか、七瀬だから出来る事。きっとあるはずだ。俺もそれを知りたい。
「因みに桐谷くんにも今伝えた事と似たような話をしたぞ」
「あ、それはちょっと嬉しいです…」
うむ、良い笑顔だ。二人はこんな所も似ているのかもしれない。
「俺は君が成長していく姿を一番近くで見ていきたい」
「成長……」
「うむ」
それは七瀬の師範であり、恋人でもある自分だけの特権だ。
頷いた俺は座卓の下で彼女の右手と、自分の左手を絡める。
「恋人としても…だがな」
「………! ありがとうございます…色々頑張りますね」
言葉尻を絞り出すように彼女が俺に言った後は手を離し、さつまいもの甘露煮を食べていく。
継子であり、恋人である七瀬とのかけがえのない存在の彼女と過ごす、暑い夏の一日だ。