第42章 霞が明けて、八雲は起きる
俺の額がコツンと七瀬のそれに当たる。温かくて心地よいこの行為は俺と彼女にとっての験担ぎでもある。
「これ、効果無くなったんでしょうか。今日初めて負けてしまいました……」
また少しだけ落ち込みの感情を顔を出す七瀬に俺は——
「まじないのような物だからな。今まで負けなかったのはたまたまではないだろうか」
「たまたま、ですか」
むう、これでは励ましにはならないな。先程と表情があまり変わっていない。
「七瀬」
「あ…はい、何でしょうか」
額を離し、今度は両手で彼女の頬を包む。瞳をじっと見つめると、今度は恥ずかしいのか。頬の温度が温かくなる。
「君に問いたい事がある。例えばの話故、そう重く捉えずともいい。七瀬はどんな柱になりたいのだろうか」
「柱…ですか。考えた事もなかったです。うーん、そうですねぇ……。全く思い浮かばないので、どんな隊士でありたいか、でも良いですか?」
「ああ、それでももちろん構わない」
この質問をしたのは二度目か。君は何と答えてくれるのだろう。
「私は鬼の存在を全く知らない方達が、当たり前に”また明日”と言える日々を守れる隊士でありたいですね」
……! これはまた…嬉しい驚きだな!
「桐谷くんも全く同じ事を言っていたぞ」
む! 何故また涙ぐんでしまうのだ!! しかし、彼もよく泣くと言っていた。
「君達二人はよく似ているな」
「そうですか?」
「ああ」
七瀬の両目から溢れる雫を親指で拭うと、彼女は思い出したように瞳を見開き ——
「あ、そうだ!似てると言えば……巧は善逸に物凄く嫉妬してましたよ」
「ほう、桐谷くんがか?何故だ?」
自分は六つの型を全て使用出来ている。しかし満遍なくなくこなせると言うだけで、極める段階までは達していない。
我妻少年は壱ノ型しか使えないが、その分自分や他の隊士に比べて放つ回数は増える。
積み重ねが多い為に威力や洗練さ。習熟度は敵わない。
「なるほど」
合点がいった俺は、大きく頷いた。