第42章 霞が明けて、八雲は起きる
あの日……それは桐谷くんが亡くなった事を知り、七瀬が泣きはらした日の事だ。その時も今と同じように瞼が腫れて、お岩さんのような瞼になっていた。
「長友さんから巧の事を聞きました。吉沢さんが亡くなった時に、巧と少し話をしたそうですね。杏寿郎さんが長友さんにお願いしたって…」
「ああ、その時の事はよく覚えている」
———-砧村(※1)にある氷川神社での任務。桐谷くんと同じ雷の呼吸の使い手であり、先輩隊士の吉沢くんが派遣された。
彼以外に向かった隊士が全員負傷。近くにいる隊士は至急応援を…との事で、その時氷川神社の一番近くにいた桐谷くんが現地へ向かった。
けれど吉沢くんは腹部からの出血多量が原因で亡くなってしまう。
悲しみに沈む桐谷くんを激励したのが、先程まで七瀬と話していた長友くんだった……と言う事だ。
「元々派遣される予定だった隠の方が急に行けなくなって、長友さんに声がかかったと聞きました」
「うむ、そうだ。長友くんは風柱邸の専任隠になるまで心に傷を負った隊士達の話を聞く…そう言う事を長くやっていた時期があってな。それもあり、彼なら桐谷くんの力になれるのではないか。そう判断して、頼んだんだ」
「長友さん、巧が私の恋人だったと伝えたら物凄く驚かれていました。それと同時に巡り合わせですね…と」
桐谷くんも七瀬も。心が辛い時、長友くんに激励してもらった。それを言うなら…
「俺と君も巡り合わせではないか?桐谷くんが繋いでくれた縁だ。大事な部下が命を懸けてかけがえのない君を守り、俺に託してくれた」
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※1 現在の東京都世田谷区喜多見。