第42章 霞が明けて、八雲は起きる
七瀬の聴覚は悪くはないと思うが…果たして心眼を使用していたとしても、悲鳴嶼殿が言った通り、柱である時透に通用するのかどうか。
しかし、この霞を打破するならば両目を開けた状態だと単純に難しい。むむむと眉間に自然と皺が寄る中、霞が少しだけ晴れて炎が一つ上がっていた。
「あれは…肆ノ型か!」
どうやら直前に放った技の後押しとして使用したらしい。熱風が庭一面に広がった霞を取り払い、七瀬と時透の姿がようやく確認出来た。
悲鳴嶼殿の予想通り、両目をつぶっていた彼女は確信した表情で瞳を開き、一歩前へ進んで時透に木刀を真っ直ぐと振り下ろした。
カン、カン、カン、カン———
攻めては払われ、攻めては払われる。必死で打ち込む七瀬を落ち着いた様子で受け流す時透だ。
伊黒と同じく、寸分の狂いもない剣捌き。しかし、七瀬も怯んではいない。
そのまま二人が打ち込みを続けていた所で、父上の声が響く。
「十分経ったぞ! ニ本目は引き分けだ!」
次の瞬間 —— 俺を含めた柱全員が思い思いに声を出し、庭中が熱気で沸いた。
★
七瀬と時透の対決は先程三本目が終わった——
所変わって、ここは煉獄邸の客間。柱達が集まり、皆が和気あいあいと食事をしている所だ。
「しのぶ姉さん、七瀬ちゃん…凄かったです…」
「ええ、私と手合わせした時よりも力をつけてましたね」
「南無……この炊き込みご飯は沢渡が作ったのか…とても美味いな」
「悲鳴嶼さんよゥ、おはぎも美味ェぜ??」
「……煉獄、沢渡は何処に行ったのだ。俺は言ってやりたい事が山程あるのだが」
「伊黒、すまん!俺も行方がわからん!」
「冨岡さん、今日も美味しそうに鮭大根食べてるわねぇ♡」
「……ああ、よく出汁が染みていて美味い」
「なあ、時透」
「…宇髄さん、どうしました?」
宇髄は右隣で好物のふろふき大根を食べている霞柱に声をかける。
「お前って継子相手でも容赦ねーよな」
「……別に普通ですよ」