第42章 霞が明けて、八雲は起きる
光栄な事だ。しかし、自分もまだまだ精進せねばな…!
それからまた俺は継子の行方を引き続き見守っていく。さて、時透はどう出るのか。
再び側にある茶を一口啜る。
「伍ノ型・霞雲の海(かうんのうみ)」
「すげえ霞だな、なんにも見えねー」
「これ…七瀬ちゃんも見えていないのよね?」
霞柱が放った型は我が家の庭のほぼ全てを覆ってしまい、二人の姿はもちろん父や横に並んで座っている柱の姿も確認出来なくなった。
七瀬が放った五つの刺突は、真っ直ぐと時透の姿を捉えて向かっていったはずだが、これでは戦況がどうなっているのか全くわからない。
見えない間にも木刀を振る音や足捌きの音が聞こえては来る。
七瀬!! 耐えろ!!
カン、と乾いた音が届いた瞬間…覆っていた霞は晴れていく。
これはどちらが仕掛けた音なのか。ゆっくりと視界が良好になる。
「時透、一本!」
ここで父の声がかかった。そうか…先制されてしまったか。
七瀬か持っていた木刀は時透に弾かれており、彼女の後方に転がっていた。
…行くか。
千寿郎から竹筒と手拭いを受け取り、草鞋を履いて縁側から降りた俺は七瀬の近くに駆け寄る。
呆けているのか、立ったまま微動だにしていない。
「七瀬、大事ないか?」
「あ……はい、大丈夫です」
やはり意識がどこか遠くに飛んでいたようだな。俺が声をかけてようやく彼女は気づいた。
両手に持っていた竹筒と手拭いを渡すと、まずのどを潤す七瀬だ。それから顔の汗を拭き、ふうと短い息を一つつく。
「どうだ、時透は」
「強いですよ、もちろん」
「そうだな! 若年でも柱だからな」
「全然隙がないんです。どこから攻めて良いのか全く思いつきませんでした」
チラと霞柱を見れば、俺と同じように竹筒と手拭いを持って行った不死川と話している。
時透は微笑みを浮かべており、それを風柱にも指摘されたのか、驚いた様子が確認出来た。