第42章 霞が明けて、八雲は起きる
型同士が相殺し合った後の時透はすかさず打ち込んでいく。それを七瀬が受ける。彼が攻める。
このやりとりを五分程した所で、七瀬が木刀を弾いて後ろに飛んだ。
木刀を右手に持ち、左掌を正面に向け、そのまま助走をした後は右足で地を蹴る。
「陸ノ型・改 —— 心炎突輪・散!(しんえんとつりん・さん)」
む!七瀬の木刀から炎の刺突が五つか? それらが放射状に広がるように放たれた。
「ほう…五つの刺突か。これはまた」
「あァ?何だ、煉獄。初めて見たのかよォ」
「…俺は先日見た」
「む?冨岡、そうなのか?」
「ああ…」
「師範には当日まで内密って事かァ」
縁側にずらりと並んでいる柱の面々。俺の左隣には不死川が、右隣には冨岡が座っている。
確かに俺には言わないのが七瀬らしいな!
恋人としての七瀬は、いつも自分に対しての好意や愛情をまっすぐにぶつけて来る。しかし、剣士の七瀬はそれとは対照的。
継子として胸の内に抱えているであろう葛藤や迷い。そう言った思いは自分にほとんど言って来ない。
——ただし。
悔しさと言う強い感情だけは、口にも態度にも隠す事なく出す。
思えば、あの時もそうであったな。
俺は初めて彼女と勝負した日の事を思い出す。かつては基本である壱ノ型の改。しかし、今日は自分で編み出した型の改である。
一体君はどこまで自分の呼吸を探究していくのだろうな!再度両腕を組み直し、傍らに置いてあるお茶を一口啜ると ——
「お前には敵わねェ。だから追いかけて行くんだとよォ」
「む?」
「自分と師範。その間にある距離は果てしなく遠い。遠いからこそいつかきっと…そんな風に思わせてくれる人だ。俺はそう聞いた」
不死川、それから冨岡の発言を続け様に聞いた俺はすぐに口角が上がる。