第42章 霞が明けて、八雲は起きる
午前十時半を回ると、次々に来客が我が家へやって来る。
まず最初に宇髄と三人の奥方。
次に胡蝶、栗花落少女、甘露寺、伊黒、悲鳴嶼殿、不死川、風柱邸専属隠の長友くん。それから冨岡。
水柱が家に上がって五分した後——
「こんにちは、七瀬。今日はよろしくね。はい、これ。君、大好きなんでしょ?銀子から聞いたよ」
霞柱の来訪である。
来たな、時透。む?手に持っているのは…文明堂のカステラではないか!!
「あ、ありがとう……無一郎くん、こんにちは。こちらこそよろしく……」
他人に興味がない素ぶりを常にする時透。しかし七瀬に対してこのような気遣いをしてくるとは…。
ポッと熱い、小さな黒点の炎が心の底に点火しそうになったが、ここは何とかこらえて消化をした。
今から七瀬は一世一代と言ってもよい勝負をするのだ。自分の身勝手な思いでこの場の雰囲気を悪くするなど、馬鹿馬鹿しい。
「着替えするなら、客間を使って。用意してあるから」
「ううん、隊服のままで大丈夫だよ。お気遣いありがとう」
何と言う事もない普通の会話だと言うのにこのざわつく感情は何なのか。しかし、余計な事は考えなくてよいのだ。俺は普段通りの調子で霞柱に声をかける。
「時透!よく来たな」
「煉獄さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「みんなもう集まっているぞ!このまま手合わせをしても良いか?」
「はい、構いません」
時透は何の躊躇いもなく、もちろん気負いもなくそう返答すると、草鞋を脱いで案内を始めた俺の後ろを付いて来る。七瀬も俺達の後を追うように歩き始めた。