第42章 霞が明けて、八雲は起きる
八月上旬——
「七瀬…七瀬…」
「ん……杏寿……さん…おはようござ…おやす……」
「こら、起きろ。朝稽古をやるぞ」
「んっ……!」
目覚めの口づけ、などと言う己の勝手な理由にし、深い愛撫を彼女に施した。
舌を絡めて歯列をなぞる。その後は七瀬の唇を強く吸い上げ、その音が静かな早朝の部屋に響いていく。
「……起きたな」
「……はい、おはようございます…」
「おはよう」
至近距離で見つめてくる焦茶の双眸が、今日も愛おしい。
「これ以上進めると、歯止めが効かなくなる」
「ん……」
彼女の左頬を撫で、再び口付けた。
すると ———
「目覚めの口づけにしては、随分強火ですね」
「仕方ないだろう、すぐに起きない君が悪い」
ほら……と背中に手を入れ、七瀬の上体をそのまま起こす。
「やっぱり杏寿郎さんの所に来て良かったです。安心して眠れました」
「そうか」
「はい」
それから無事に起床した七瀬と俺は朝の鍛錬を済ませた。
八月の太陽の日差しは朝から焼けるように暑い。
一時間程体を動かすと、汗がなかなか収まらない。これはとうに日焼けをしているだろう。
二人で湯浴みを済ませた後は、朝食の時間だ。
「いただきます」
居間に四分の声が響く。今日のだご汁は久しぶりに七瀬が作ったようだ。
「うまい!!! わっしょい!!」
「七瀬さんが作った日はやはりさつまいもが多めだな」
「父上、今日のさつまいもはとても甘くて美味しいですよ」
——— 今日はとうとう時透と我が継子の勝負の日だ。しっかりと見届けなくてはいけない。見届ける必要がある。