第40章 霞柱との対戦に向けて
すると七瀬は深呼吸を一つして、俺から額を離すと今度はぎゅうと抱きついて来た。
ならば俺も同じ事をするとしよう。ゆっくりと彼女を包むように己の腕を七瀬の体に回す。
ふわりと鼻腔を掠めるのは、柑橘系の香りだ。
ピタリと俺の心臓に左耳を密着した彼女は、何を思うのか。七瀬はこうして体同士を触れ合わせると、安心するとよく言う。
顔を覗きこんでみると、瞳を閉じている。まるで眠っているようだな! ん? 待て待て、寝られてしまっては非常に困るぞ!!
「……七瀬? 起きているか?」
念の為、彼女に声をかけた。すると ——
「…あ、はい。何とか」
やはりな。寝入ってしまう所だったようだ。
「やっぱり杏寿郎さんのここは力を貰えますね…震えた気持ちもどこかに飛んでいきましたよ」
「そうか!」
であれば、良かった! 本当に気分が晴れた様子の彼女はこれから、千寿郎と買い物に言ってくるとの事だ。
ゆっくりと離れようとするが、俺はまだ君の体温を感じていたい。
先程七瀬が自分にしてくれたように、今度は俺が彼女を抱きしめる。
「杏寿郎さん?どうしました?」
そっと背中に両手を回してくれる七瀬は、掌を軽くあてながらそこを撫でた。本当はこのまま彼女と一緒に過ごしたい。
「…君が今夜来るのを待っている。共に寝よう」
「わかってましたか。流石ですね。はい、じゃあ伺います……」
先程の震えた気持ちとやらを完全に取り払うには、今だけではなく夜もこうして抱きしめてやらねば難しいのだろう。
七瀬が離れる前に、彼女からの口付けと抱擁を受け取った。軽い愛撫だが、気持ちは十二分に伝わって来る。
「行って来ます。また夜に」
「うむ、承知した!」