第40章 霞柱との対戦に向けて
その日の夜の事だ。
「ほう、親切な方も世の中にはいる物だな」
「はい、鬼殺でささくれだった心がとても穏やかになりました」
互いの任務が無事終わり、帰宅した俺の部屋に七瀬がやって来た。今は彼女が昼間会ったと言う一人の男性について話している。
「とっても素敵な方でしたよ」
「七瀬がそこまで言うとは…俺も出会ってみたかった」
彼の名前は渋沢栄一。最近経済界をとても賑わせている人物らしい。
以心伝心で人気の品である目当ての塩大福が目の前で売り切れ、落胆した千寿郎に己が購入した大福を心よく譲ってくれたとの事である。
「いつか会えるんじゃないですか?未来で…なんて」
「未来か!君はまた面白い事を言う!」
未来 —— 何年か後の時代、悪鬼は存在しているのだろうか。
それとも我が鬼殺隊は長年の夢を叶え、鬼のいない世の中などと夢物語のような世界になっているのだろうか。
「七瀬、おいで」
「ふふ、はい。すぐ行きます」
先に布団に入った俺が手招きをすると、嬉々としながら横に入って来る彼女は本当に愛らしい。
未来に思いを馳せるのも悪くないが、今は七瀬との時間を大事にせねばな。
「今日は良い気分で寝れそうです」
笑顔で目を閉じる恋人の額と瞼にちう、と柔らかな口付けを贈る。
「おやすみ、七瀬」
「ん…おやすみ…なさい…」
もう一度口付けると、スウスウと息をしながらあっという間に寝てしまう七瀬だ。
明日は彼女にとっての一世一代の勝負。俺もしっかりと見届けねばな。
両目を閉じれば、七瀬の髪から香る柑橘系の香りがより一層強く感じられる。
心地よい感覚と共に、己の意識を夢の中へと手放した。