第39章 甘えさせ上手と言われたい ✳︎✳︎
俺が? 本当にか?
そんな気持ちを瞳に宿して私に聞いてくる杏寿郎さんが、愛おしい。一見「綺麗」と言う形容は彼に当てはまらないかもしれないけど…。
「だって本当にきれいですもん。眉間にシワが寄る所とか」
「…そうなのか?」
「はい。基本的にいつも杏寿郎さんは前向きなので。こうして私と…密着して、いる時にしか見れないし…独占出来てるなあとも思うから」
「なるほど」
あ、合点がいったみたい。納得したって言う表情だ。更に「杏寿郎さんは綺麗だ」説を私は懸命に伝えていく。
「もちろん顔立ちが綺麗と言うのもありますけどね。眺めているだけで幸せになります」
「ん? 眺めるだけで良いのか?」
離れていた顔がグッと近づいた。わっ、ふいうちは困るよ。一瞬体の動きがピタリと止まる私だ。
「俺は君を眺めるだけでは、とても満足出来ないぞ? 七瀬とは手を繋ぎたいし、抱きしめたい。無論素肌同士をこうして重ねたいし、口付けもたくさんしたい。それから ——」
「あの、ごめんなさい…眺めているだけは寂しいです。私も杏寿郎さんと手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、抱き…しめて、も貰いたいし…」
「君の言いたい事はそこで終わりではないのだろう? ゆっくりで構わないから、教えてくれ」
顔の表面温度が急上昇する。えーと、えーとそれから言う事は…。
両頬が彼の掌で包まれた瞬間、小さな口付けが唇に届いた。
「えっと…今こうして体を密着させたり…それか、ら…」
「うむ、続きを頼む」
「…」
「七瀬、話してくれ」
頬を包み込んだ両掌はそのまま留まり、今度は彼の額が私の額にゆっくりとあてられた、これは口付けをする時と同じ距離だ。
「はい…あの、口付けたり…色々な所に触れたり…触れて、もらったり…その…私、のなかに…はいっ…ごめんなさい。これ以上は…ちょっと…」