第39章 甘えさせ上手と言われたい ✳︎✳︎
これ以上はとても口に出せない…!!
顔だけでなく、背中も腰も足も。全身の至る所が羞恥で熱を持っている。
しばらくその状態でいると、額にあった彼の額がそっと離れた。
何十回、いや何百回と今の真っ赤に染まった顔を杏寿郎さんには見られている。
今回も例にもれずそう。その度に恥ずかしさで胸がいっぱいになる。
「つまりは君も出来る限り俺と体を触れ合わせたい。そうなのだな!」
うう、自分で気持ちを伝えるのも恥ずかしいけど、相手にそれを口に出されるのも耐えられない…!
「はい…そ、うで,す…恥ずかしいから、あまり…言わせないでくだ、さい」
「すまん、それはあまり聞いてやれないやもしれん」
「えぇ…」
がっくりと頭を杏寿郎さんの胸に預け、私は脱力した。これからもこの関係は変わらないんだろう。すると背中にゆっくりと両腕が回り、彼の掌が傷痕にあたる。
円を描くように撫でて来た感触がくすぐったく、小さく体が震えた。
それから恋人を見上げて ——
「杏寿郎さんが触ってくれるので、ここの傷が少し好きになりました。大きいし、歪だから。触る度に落ち込んだりもしてましたが…今は少しずつ…平気になってます」
「そうか、ならば良かった」
あなたが触れてくれる度に「大した事ではないぞ」と言われているようでもあるから。そしてふと時間が気になり、部屋の掛け時計に視線をやった。
あまり時間は経って…ないはず。そんな感覚でいると、時刻はとうに真夜中を過ぎていた。
「あっ…そろそろ寝ましょうよ。三時回ってます…」
「む? もうそんな時間か」
杏寿郎さんと過ごす時間は、自分が思っている以上に過ぎるのが早い。充実している証拠なんだけど、好きな人とは少しでも長く長く過ごしたいって言うのが正直な気持ち。
「おやすみ」と寝る前の挨拶を交わした私達は、今夜も互いの体を密着させて眠りについた。
✳︎七瀬から見た景色✳︎ 終わり