第38章 父と息子の初炎武(えんぶ) 〜二人の炎柱〜
七瀬による試合開始の声かけがあって一分が過ぎた頃、互いに様子を伺っていた二人に動きがあった。
木刀を中段に構えている槇寿郎が、同じく中段に構えている杏寿郎に向かって一歩踏み出す。
カン、と乾いた木の音が一回、二回、三回、四回と繰り返され、二人は一度後ろに退いた。
『よし、体は問題なく動く。頃合いを見て呼吸を出そう』
『確かに調子は良いようだ。ならば ——!』
蝉の声しか聞こえない空間に、ザザッと足が動く音が響く。今度は杏寿郎が、すばやい足さばきで槇寿郎の間合いに入ったのだ。
鋭く速い一振りを、槇寿郎は難なく弾き返す。カンカンと再び響く小気味良い音。
「槇寿郎さん、調子が本当に良いんだね」
「ええ、でもまずは兄上の様子を見ているようです。父上は慎重な方なので、準備も念入りにされてましたからね」
七瀬と千寿郎は適度に水分補給をしながら、杏寿郎と槇寿郎の勝負を見守っている。
雲は先程より増えて来たが暑さはおさまる事がない。その為、背中や額にはうっすらと汗をかきつつあった。
そうして互いが打ち合い始めて十分が経過した頃、槇寿郎の呼吸が変化する。静かだが熱い息遣いだ。
炎の呼吸・壱ノ型 —— と見せかけ、落としていた腰を更にもう一段階、地面へと近づけた。
『これは…! 何故父上が…』
「不知火・連」
七瀬、君か ———
攻撃、守備、どちらにも対応出来るように準備をしていた杏寿郎。だが、父が苦手とする不知火の二連撃を放つとは予想をしていなかった為に、僅かだが動きに遅れが生じる。
「……!!」
グワッと炎の一閃が二度左右に薙いだが、現役の柱である杏寿郎は、辛くもその攻撃に対して反応をした。
『奇襲攻撃は少しは効果があったが、流石だな』
槇寿郎は息子の防御する姿を見ながら、自分が炎柱をしていた頃の出来事が脳内を通り過ぎ、そしてニヤリと口元に笑みを宿す。