第38章 父と息子の初炎武(えんぶ) 〜二人の炎柱〜
親子対決の一週間前 ——
槇寿郎は七瀬にこんな相談を持ちかけていた。
「不知火の連撃ですか? どうしてまた……」
縁側に二人が並んで座り、間には冷えた麦茶が乗った盆が置かれている。
槇寿郎は湯呑みを手に持つと、ゴクリと一口飲んで言葉を発した。
七瀬は彼の口から一体何が語られるだろうか、とドキドキと気持ちが高鳴るのを感じながら槇寿郎の言葉を待つ。
「実は、不知火が苦手なんだ。これは恐らく杏寿郎も把握している。だから……」
出さないであろう型を攻撃に組み込み、杏寿郎を驚かせたい。
七瀬はこの言葉を聞き、そんなに遠くない過去を思い出すとふっと口元に笑みを宿す。
何かおかしな事を言っただろうか、と小首を傾げた槇寿郎はそれを隣の七瀬に問うと ——
「申し訳ありません、全然おかしな事ではないんです。あの、私も槇寿郎さんと同じように杏寿郎さんを驚かせたい一心で、不知火の改を考えたなあって……」
「そうだったのか」
「はい、ですので……杏寿郎さんを驚かせましょう」
二人の双眸が交わったこの瞬間、七瀬と槇寿郎の目的が一致した。ゴクゴクと湯呑みに入っている麦茶を飲み終えたと同時、玄関の引き戸がガララと開く。
「ただいま帰りました!」
「兄上、お帰りなさい。任務お疲れ様でした」
杏寿郎を千寿郎が出迎えたようだ。七瀬と槇寿郎は互いに目を見開き、そして同じ事頃合いで笑う。
「噂をしてたら、ご本人が戻って来ました。聞こえてたのでしょうか?」
「いや、いくらあいつでもそれはないだろう。声は大きいが人の話はあまり聞いていない奴だぞ」
「ふふ、そうでしたね。じゃあ槇寿郎さん。私はお先に玄関へ向かいます」
「ああ、俺達二人が同時に行ったら怪しまれるからな。そうしてくれ」
父と恋人が陰でこんな約束をしている事は、もちろん知らない杏寿郎である。