第37章 夏の小江戸へ君を連れて
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン——
それから川越駅まで歩いた後電車に乗り、行きと同じように国分寺駅で乗り換えた。
今は二つ目の乗り換え駅である新宿に向かっている。
「さっきまで田んぼばかりだったのに、あっと言う間に家々ばかりの景色になって来ましたね。日帰りでしたけど、小旅行をしたような気分です」
窓側の座席に座っている七瀬は、車窓から過ぎゆく景色を見ながら話しかけて来た。彼女と俺の手はしっかりと繋がれている。
「俺は君とその小旅行をした気分だが?」
「ふふ、ありがとうございます」
七瀬の小さな右手をより一層強く絡めると、笑顔を見せながら言葉を続ける彼女だ。
「あ、そうだ。今度写真を受け取りに行かないと。三人の写真が私早く見たいです」
写真と言うのは俺の誕生日前日、父と弟で撮りに行った物だ。
三日前、窪田写真館からその時の記念写真が仕上がったと電話で連絡があった。応対をしたのは七瀬だ。
「ん? 俺達の写真よりもか?」
やや悪戯心を見せながら、彼女にずいっと顔を近づけると、七瀬の顔の赤みが濃く変化する。
「…もちろん、それも楽しみです。でも三人が写っている様子は私、見れなかったから…」
「すまない、つまらない事を言った」
「いえ……嬉しかったですよ」
そうだ、七瀬は発熱をした為、あの日は家で休んでいたのだ。
笑顔を見せた彼女にそっと触れるだけの口付けを贈る。
「もう……他の人もいるんですよ」
互いの顔が離れた瞬間、コッソリと小さな声で抗議する七瀬。
だがそれに対し「この席は他の席から死角になっている。故に問題はない」と返答する俺だ。