第37章 夏の小江戸へ君を連れて
ふと懐中時計を確認すると、時刻は十五時半を過ぎた所であった。
「そろそろ任務の準備をせねばな。我が家に帰るとしよう」
七瀬左手をいつものように自然に取った後、これもまたいつものように右手できゅっ…と絡める。
「……はい」と応えてくれた後、ゆっくり握り返してくれる彼女。
鬼殺で忙しい日々の中でも、大切にしたい瞬間だ。
駅までの道を朝来た時と同じように七瀬と歩いて行く。彼女がふと空を見上げた。
それに倣い、自分も目線を上げると、夏の太陽はまだまだ頭上に鎮座したままである。
鬼達は絶対と言って良い程、姿を見せない時間帯か。
そんな職業病のような事を考えていると、七瀬が自分の名前を呼んで来る。
「杏寿郎さん」
「どうした?」
「私が以前、煉獄家の男性は皆さん太陽だって言ったのを覚えてますか?」
「ああ、覚えているが…それがどうかしたのか?」
「ええ…あれ、季節の太陽にも例えられるなあって思って…」
季節の太陽か。父と弟はどれにあてはまるのだろうか。俄然興味が湧いた俺は「面白そうだな。聞かせてくれ」と彼女の発言を促した。
「ありがとうございます!まず杏寿郎さんは今真上に出ている夏の太陽で…」
ほう、俺は夏なのか!
生まれた月は五月故、春と言われると予想していたが、どうやら千寿郎が春との事だ。父は秋の太陽なのだと続ける。
何故なのだろうか。
「千寿郎くんは暖かい春で…槇寿郎さんは落ち着いていらっしゃるから、日差しが柔らかくなる秋」
これはなかなか言い得て妙だな。
弟は常に穏やかだし、父は炎柱ではあったが、元々は静かな人だ。
そうなると気になるのが ———
「ふむ、では俺が夏と言う理由は?」
やはりこれだろう。七瀬、君はどんな答えを聞かせてくれるのだ??