第37章 夏の小江戸へ君を連れて
それから時の鐘にやって来た。その名の通り、時間を告げる鐘だ。
一日に四回、鐘付きを行っているそうでその感覚は午前六時・正午・午後三時・午後六時。
「今は十四時五十五分。後五分で鳴るようだ」
「もう少しですね。あ!男性が鐘付き台に上がって来ましたよ」
懐中時計で時間を確認し、また視線を鐘楼(しょうろう)へと戻す。
時の鐘の中には存在感のある大きな杉の通柱(とおしばしら)があるようだ。
川越は道が狭いので、この大木を運んでくるのにとても苦労したんだよと、ここへ立ち寄ると未菜子さんに伝えた際、彼女が教えてくれた。
鐘付き台まで階段を使って上がって来た男性…鐘付き守と呼ばれている者が鐘を突く準備をしている。
それに伴い、自分達の周りにも人が集まって来た。
寺の鐘を突くのとほぼ同じ構造になっているようだ。男性が鐘をつくための撞木(しゅもく)についている紐を両手に持った。
「十五時だ」
再度自分の懐中時計で時間を確認すると、長針が十二の真上にぴたりと重なった。
次の瞬間、男性がボーン……と撞木で鐘を一度突いた。
寺から聴こえる鐘の音と殆ど一緒だ。
しかし ——
「何だか心に染み渡る音色ですね。あたたかい音と言うか…」
「……そうだな」
あたたかく感じるのは、横に恋人がいるせいかもしれない。
聴覚に優れている我妻少年であれば、どう表現するのだろうか。
そんな考えも頭によぎり、七瀬に伝えると「丁度同じ事を考えていた」と言ってくる。
「六時の鐘は夜明けを知らせる音なんでしょうね。それも聴いてみたいです」
確か —— 七瀬が厠に言っている間に律子さんから聞いたのだが…大晦日の時の鐘は除夜の鐘と同じ役割をすると言っていたな。
続けてその情報を伝えると「凄く良いと思います」と、随分興奮した様子で俺に言ってくるのが、微笑ましい。