第37章 夏の小江戸へ君を連れて
「私、あんみつにします!」
「ほう、そうか。では俺はみたらし団子にしよう」
これは驚いた。七瀬があんみつを選ぶとは、意外だったな! 右手を上げ、先ほど注文を聞きに来た彼女 —— 未菜子さんの娘さんに声をかける。
★
「杏寿郎さん…美味しすぎて涙が出そうです」
「ははは、そうか! 良かったな」
十分後、七瀬はあんみつを食しながら感激をしている。
文明堂のカステラを口にした際もなかなかの衝撃だったそうだが、中川屋の甘味もそれに匹敵するぐらいの美味しさとの事!
サイの目状に切った寒天に、茹でて冷やした赤エンドウマメ。
小豆餡に求肥(ぎゅうひ)と干し杏子。
彼女はこれに黒蜜をかけて食べているのだが、相性がとても良いらしく、食べた瞬間から「美味しい、美味しい」と何度も口にしているのだ。
そして今俺が食べているみたらし団子も名物と言うだけあって、本当にうまい!
「うまいな! とてもうまい!!」
絶品とはこの事を言うのか。
食欲が止まらず、食べた団子の数は二十を超えた。
我ながらよく入る胃袋だと思う。牛鍋定食七人前を食べたが、まだまだ容量は限界に達していないのだから。
栗花落少女は笑顔を見せながら、あんみつを食べているし、竈門少年もみたらし団子を追加注文して食べている。
四人全員が甘味に夢中の中、七瀬が給仕の少女に声をかけ、カステラを持ち帰りたいと言った。
父や弟と共に食べたいからと言うのが理由だ。
「ちょうど最後の一つだったんですよ! ツイてますね!」
なんと! これは確かにツイているな。
横にいる恋人の表情がまた柔らかくなり、俺の心もじわりとあたたかな感情が広がっていく。