第37章 夏の小江戸へ君を連れて
「こんにちは!ようこそ川越へ。ご注文はお決まりですか?」
七瀬とそんなやりとりをしていると、彼女と同じ年頃であろう一人の女子が注文を聞きにやって来た。
やや癖がある髪を後ろで一つ結びにしており、幼いが目鼻立ちは整った顔立ちである。
花車(はなぐるま=ガーベラ)模様の黄色い浴衣に、帯は七瀬と同じ装飾なしの水色。濃紺の前掛けをしている彼女は、よもやこの店の看板娘か?
「こんにちは! つかぬ事を尋ねるが、君は未菜子さんと言う方を知っているだろうか?」
「え…は、はい。未菜子は私の母ですが…」
そうか! やはり彼女はこの店の者か!
俺が挨拶をすると同時に話しかけると、目の前の女子は何故か動きが止まった代わりに瞬きの回数が急に多くなっている。
……? さて俺が何かしたのだろうか?
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「はい、お待たせ。えっと……牛鍋定食が八人前??と、天ぷら定食が二人前で良いのかな?」
「合ってます…。牛鍋定食、一つは私です」
「じゃあまずは二人前ね。残りは食べ終わったら、声をかけてちょうだい」
十分後、先程とは別の女性が注文した食事を持ってやって来た。
四人しかいないのにその二倍の八人前を頼んだ故か、首を傾げながら数回注文書と俺達四人を見比べている。
七瀬が申し訳なさそうに右手を上げながら会釈をし、俺と彼女が注文し定食を順番に受け取り終えると、天ぷら定食二つは竈門少年と栗花落少女がそれぞれ受け取った。
今、自分達四人に定食を持って来てくれたのが女将の未菜子さんだ。先程給仕に来た女子は律子と言う名で、彼女の娘と言う事だ。
そして俺が思った通り、この中川屋の看板娘を務めているらしい。
二人はよく似た親子で、長い髪は後ろで短いまとめ髪にしており、藍色の浴衣を着ている。