第37章 夏の小江戸へ君を連れて
「え?炭治郎にカナヲ?」
「む? 竈門少年……??」
「煉獄さん!七瀬!」
「こんにちは。炎柱様、七瀬ちゃん」
入り口から一番遠い奥の席に向かい合って座っている男女は、七瀬の弟弟子と、友人であった。
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「やはりあの風鈴か!」
「はい、カナヲが行きたいって言ってくれたので……」
二人の正面に俺と七瀬は座り、竈門少年と話し始めていく。
柚葉色(ゆずはいろ)の浴衣に黒の市松模様の角帯を巻いている少年は、普段より男らしさが増しており、見ていて気持ちが良い。
少年の横に座っている栗花落少女は、竈門妹が着用している衣服の柄 —— 確か麻の葉文様(あさのはもんよう)であったか?
その浴衣を着ており、腰に巻いている帯は黒。模様は浴衣と同じ麻の文様だ。
長い黒髪は頭の上で団子にし、生成りの玉簪(たまかんざし)で止めている。少年少女の浴衣と帯の釣り合いが、しっくり来るのは彼らが己に似合う物を身につけている証拠なのだろう。
「杏寿郎さん、ここのお店は何がお勧めなんですか?」
横から七瀬より声がかかった。目の前の二人にこの店に来た事があるかと問えば、初めてだとの事だ。
ふむ、であるなら俺の出番だな。
「ああ、食事は何でも美味いそうだ。甘味はあんみつとみたらし団子…それからカステラが絶品だと父上から聞いたぞ」
瞬間、七瀬が口元を慌てて右手で口を押さえた。考えずともこの行動の意味にピンと来た俺は、小さな笑いが口元より出てしまう。
「もう……花より団子って言いたいんでしょう?」
「いや、そう言う訳ではないのだが……君は本当に退屈しないな」
ポンと彼女の左肩に手を乗せると、やや恨めしい視線を寄越された。
七瀬、君は本当にカステラに目がないな!!