第37章 夏の小江戸へ君を連れて
前にも後ろにも人、人、人の波だ。
人口密度が非常に高い。今一度彼女の左手を、きゅっと繋ぎ直す。
「杏寿郎さん……?」
「ここではぐれてしまうと、大変だからな」
「ありがとうございます」
一列、二列と前の人達が順番に回廊の中を進んで行き、いよいよ俺達も入り口へ立つ。
コの字型の回廊は檜の木で建てられており、天井には入り口からあまり隙間を空けず、横一列に。
そして左右の側面にも吊るされている、多くの色の風鈴達。
時々吹くそよ風に揺らされて、ちりんちりん”と可愛らしく、どこかホッと落ち着く音を鳴らしている。
赤、黄色、青、緑、透明。
様々な色で構成されている風鈴が、自分と七瀬の目と耳を楽しませてくれた。
「癒されます…」
「そうだな! 因みに先程耳にしたのだが、風鈴は二千個以上あるそうだぞ」
「へえ〜凄い数ですね!!」
自分達が鬼を狩る”鬼殺隊”である事を忘れる事が出来る瞬間だな。風鈴の音が織りなす調和に、二人でほっこりと一息つく。
風鈴回廊を抜けた先は本殿があり、その前を通ると今度は天井や左右の側面に多くの絵馬が飾られている隧道(すいどう=トンネル)にたどり着いた。
「ここも素敵です! ねえ、杏寿郎さん。私達も絵馬に願い事書きませんか?」
「願い事、か?」
思わぬ事を言われてしまい、やや虚をつかれてしまった。
「炎柱の願い事って絶対叶いそうですもん」
「七瀬は相変わらず面白い事を言う」
俺の願いはそんなにも叶いやすいのだろうか。
よくわからないが、恋人の七瀬が言うのであれば信じてみるとするか。
了承の返事をしながら、彼女の頭にポンと掌を乗せる。君の願いは何なのだろうな。
隧道を抜けた後、絵馬を持ち、互いに願い事を書く。
「悪鬼滅殺! 皆が安心して過ごせる毎日が一日でも早く来るように。七瀬とまたこの神社に参拝出来るように」
その後、再度隧道に向かい、二人でそれぞれ絵馬をかけた。