第37章 夏の小江戸へ君を連れて
国分寺駅から今度は川越鉄道に乗り換えた。
この頃合いで隣に座っている七瀬に問いかけてみる。すると「そう、でしょうね」と言うではないか。
「? 何故君までそのように思う?」
「だって杏寿郎さんは稽古時、物凄く厳しいでしょう? これは全隊士が知っています。まあ普段はそんな事ないけど、恋愛となるとどうなるか予想出来ないんじゃないですか? 私もお付き合いしてみて、こんなに甘いんだーって驚きましたから」
「ふむ、そんなものか?」
「はい。驚いたけど、とても嬉しいです」
瞬間、絡めていた手にそっと彼女の右手が一瞬載せられ、またすぐ離れる。不意打ちの行動だった為、とくんと心臓が心地よく跳ねた。
そんな俺を笑顔で見つめる君は、さらりと話題を変える。
「着いたらまず神社に向かうとして…杏寿郎さんは他にどこか行きたい所ってありますか?」
「うむ、どうしても立ち寄りたい甘味処がある。そこへも行きたいな!」
「えっ……どんな所ですか??」
甘味が大好物の彼女は体を前のめりにし、真剣に聞き返して来た。一生懸命な様子が愛らしく、微笑ましい。
笑いながら、本当に甘味に目がないのだなと伝えると更に前のめりになって返答をして来る。
「女の子は殆どの人が好きですよ、私だけじゃないです。でも珍しいですね。杏寿郎さんが甘味処に行きたいだなんて」
「うむ、実はその店はな……」
「間もなく川越ー川越ー」
言いかけた所で、車内放送と頃合いが重なってしまう。
「着いたらまた改めて」
「はい、わかりました」
彼女が応えてくれた後は、先程乗り換えた時と同じように右手を差し出す。また嬉しそうな顔をする君はそこへゆっくりと左手を載せてくれた。
手を絡めるのも先程と同じだ。
七瀬がふふっと笑顔を見せると、俺の顔にも笑顔が宿る。
★
終着駅である川越駅を降り、神社に向かう道を二人で歩いている。
やはり考えている事が同じなのか、周りにいる人達も皆(みな)が神社の方角に向かっている。