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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第34章 八雲心炎、燃ゆる立つ



「俺の継子は本当に自慢だなと改めて思った」

「ありがとうございます、嬉しいです。でも自慢は少し恐れ多い……わっ、ちょっと痛い、です」

突然背中に回っている杏寿郎の腕の力が強くなり、七瀬は驚いてしまった。

「君は今日初めて俺に負けなかった! 初めてだぞ?」
「ふふ、凄く嬉しそうですね」
「嬉しい以外に言葉が見つからん!」


一本だけだが、杏寿郎の言うように七瀬は負けなかった。
真剣勝負は勿論、娯楽のかるたでさえも勝った事はなかったのだ。

これ以上謙遜はしないでおこう。
七瀬は心の中でそう決めた。せっかく前向きな言葉を伝えてくれた杏寿郎の思いを無碍にするのは良くないな、と思った為だ。



「杏寿郎さんの心炎が今日も燃えています」
「ん? どういう事だ?」

彼女が真上を見上げると、二つの日輪が七瀬を穏やかな眼差しで見つめていた。

ここの事ですよ、と今まで彼女が耳をあてていた杏寿郎の心臓を右人差し指でトントン…と指す。

「陸ノ型の〈心炎〉は杏寿郎さんの事なんです。いつもここから温かくて力強い灯火を感じるので」

「そうか」

新しい炎の呼吸の技名が、まさか自分から名付けられたとは思わなかった杏寿郎。しかし、七瀬がどんな思いを込めて命名したのか。

それを思案すると彼の胸にはあたたかく、心地よい感情がじわりと広がっている。

「でも煉獄家は槇寿郎さんも、千寿郎くんも心の炎を持っていると思います」

「なるほど、心の炎か」

はい、と頷いた七瀬は彼の心炎 —— 心臓ににゆっくりと口付けた。


「では捌ノ型の〈舞雲〉は、よもや…?」

「八雲からです。同じ数字なので掛けてみました。なんか恥ずかしいですね…」

ポッと両頬を桃色に染めた七瀬は杏寿郎の胸に、顔をうずめた。それからなかなか頭をあげない彼女を見て、再び彼の胸中にあたたかな気持ちが広がっていく。

「君は今日非番か?」
「? そうですが……」

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