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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第34章 八雲心炎、燃ゆる立つ



何故杏寿郎はそんな事を聞いて来るのか、一瞬疑問に思った七瀬。しかし、自分が着用している衣服を見て合点がいく。

『あ、この時間になっても私が隊服じゃないからか』

はいと彼女が頷けば、頭上から杏寿郎が嬉しそうに笑った。

「今宵の任務の後、君を労いに行く」
「労い……」
「うむ!」


この時 —— 七瀬の瞳には恋人の双眸の奥に弱火だが、しっかりと燃え始めた炎が見えていた。








日付が変わった午前一時過ぎ、七瀬の部屋の襖がゆっくりと開かれる。

「ん…杏寿郎さ、ん…?」

寝ないで待っていようと思っていたが、昼間の勝負の疲れからいつの間にか眠ってしまったようだ。

起き上がり、寝ぼけ眼を少しこすりながら焦点を合わすと、着流し姿の杏寿郎が傍に座っている。

「ただいま、七瀬」
「お帰りなさい。ご無事のお戻り何よりでした」

七瀬は杏寿郎の頭の頂きから足先まで怪我がないかをまず確認した。特に変わった様子がない事がわかり、ホッと安堵の息をつく。

「怪我はしてませんね、良かった……」
「ああ、問題ない!」

杏寿郎は七瀬の右手を自分の左手でゆっくりと絡めると、指先に優しい口付けを落とす。

「今日一番頑張ったのはここだな」
「そうですね、終わった後は両手がしばらく痺れていました」
「ではこちらも……」

右手と同じように左手の指先にもあたたかな口付けが落ちた。


「…………」
「…………」

二人の間に静かな時間が流れると、大きな両手が七瀬の頬を包み込む。ドキ、ドキと高鳴る心臓はこれから訪れる甘い時間を予感しているようだ。


「今夜は君をたくさん甘やかしたい」
「ありがとうございます…でもいつもそうしてくれますよ、杏寿郎さんは」

「そうか?」
「はい」

七瀬の小さな顎が掬われると近づくのは杏寿郎の顔だ。
彼女はゆっくりと目を閉じ、恋人が与えてくれる口付けを受け止めた。

「労いの時間だ、七瀬」

八雲と心炎。
二人の大事な大事な時間が、今宵も始まる。





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