第34章 八雲心炎、燃ゆる立つ
ゆら……と杏寿郎の金髪が揺れている。
彼の足元からは、熱く燃え上がる闘気がじわっと空気に混ざり合うように浮かんでいた。
『む…最初は炎の呼吸で攻めてくるわけではないのか』
対して ——- 七瀬の足元は始める前と変わらないままである。
『あの時と違って、今回は時間制限がある……だからまずはこの型から……』
「全集中 —— 水の呼吸!」
彼女は狭霧山で、弟弟子の炭治郎と共に修行に励んだ日々の事を思い出す。そして兄弟子の義勇と剣を交える度に、何度も何度も感じていた。
この人のような呼吸が使える剣士になりたい、と。
水の呼吸の中で自分が一番やりやすい型はどれなのか。無駄な力を入れずに放てる型はどの型なのか。
そうして試行錯誤した末に辿り着いた結論がこれであった。
「肆ノ型 ——— 打ち潮!」
七瀬の周囲にザン……と打ち付ける波が現れる。これは兄弟子の義勇が最もやりやすそうにしている型だ。
ザアッ……と木刀からも海のような波の斬撃が繰り出される。
『前回と同じく、基本に戻る…か。ならば!』
「炎の呼吸・弐ノ型 ——— 昇り炎天」
対する杏寿郎が放った型は炎の輪のような斬撃だ。瞬間、七瀬の呼吸が変わった。
「炎の呼吸・捌ノ型 —— 烈火の舞雲!!(れっかのまいうん)」
海の波のような斬撃が赤く変化し、それは燃え上がる炎の龍へと姿を変えた。
炎の龍は螺旋状に舞い上がった後、一気に下降し、杏寿郎を真っ直ぐと捉えて向かって来る。
『なるほど、炎龍とはな。玖ノ型の煉獄に繋がる型か…』
彼は弍ノ型を放ち終わると同時に、また新たな型を打った。
「肆ノ型 —— 盛炎のうねり」
杏寿郎の木刀から、大きな大きな渦の壁が繰り出されると、七瀬が放った炎の龍は、少しずつ少しずつ吸い込まれるように消失してしまう。