第34章 八雲心炎、燃ゆる立つ
——— 六月十六日、水曜日。
関東地方は先週から梅雨に入り、連日曇りや雨が降る日が続いているが、今日の太陽は朝から燦々と。眩しい光をめいいっぱい放っている。
「本当に梅雨に入ったとは思えませんね」
「そうだな」
そして……七瀬が杏寿郎の継子になり、丁度一年が経った。
「丁度昨年の今頃だったか? 君が俺の継子になったのは」
彼の言葉にふふっと笑いがこぼれる七瀬である。
「む? 何がおかしい?」
「いえ…私も同じ事を考えていました」
「そうか」
杏寿郎は今頭上に出ている、日輪と同様の眩しい笑顔を見せていた。二人は朝の稽古をこなし、柔軟を念入りにしながら話していると ——
「そろそろいいか?」
声の主は槇寿郎だ。彼は千寿郎と共に縁側から庭へと降りて来た。
「はい」と同じ頃合いで返答した七瀬と杏寿郎は、互いに木刀を持ち、一定の距離を取って向き合う。
「今日の勝負は三本。時間はそうだな…一回十分で、休憩は間に五分挟むとしよう。先にニ本先制した方が勝ちだ」
「はい」
互いに返事をする二人に、槇寿郎はこうも言う。
「それから煉獄を放つのは禁止だ! 家が吹き飛ばされてはたまらんからな……頼むぞ」
「……はい」
これには七瀬も杏寿郎も苦笑いだ。
しかし、該当するのは杏寿郎だけだろう。七瀬が放つ煉獄はまだまだだ、と本人はよくわかっている為である。
「それでは——— 始め!」
九ヶ月前と同じように、炎柱とその継子の真剣勝負が始まった。