第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「あの杏寿郎さん、勝負って言うのはいつかの恋の勝負ですか?」
「七瀬…この話の流れで何故そうなる?……剣術での勝負だ」
「ええ? またどうしてですか?」
どうして、と言うのは俺が言いたい言葉だ。そしてここまで驚かれてしまうのは何故だ!?
「先程言っただろう?君が俺の継子になって、じき一年。節目だからな。確認しておきたい」
「確かに理由としては納得できますけど…」
そんなに躊躇する事だろうか。俺が七瀬の立場ならば嬉々として了承するぞ!!
「捌ノ型の進捗状況は?」
「先日完成しましたよ」
「うむ、では丁度良い。せっかくだ、父上と千寿郎にも見てもらおう」
「ええ?それ本気ですか?」
本気に決まっているではないか。 それに新しい型が見れるとあれば、実施しない理由などない!!
「どうした?」
「いえ…良い表情をしてるなあって」
掌で彼女の左頬をゆっくりと包むと、自分の右手の上から七瀬の左手が重なった。この何気ない行為に心地よくなった俺は恋人の唇に口付けを贈る。
「君もな…」
「ん…」
啄む口付けをすれば、思考がゆっくりと溶け始めていく。
「花屋で…何を…ん…話してた?」
「果耶ちゃん…とですか?…あ…ん…気持ちい…」
首に回る華奢な腕。先に進んでも良い、と言う七瀬からの合図に口元が緩んだ。
『今日はね…とっても大事な人の誕生日なの。スターチスで何か良いのある?』
『はい、わかりました。七瀬さん…黄色にしましょう。花言葉が愛の喜びと誠実、ですよ』
あの時、こんなやりとりを二人したそうだ。久住少女に感謝せねばな。額をコツンと恋人と合わせ、体温を感じ合う。
「今日は本当に良い一日になった。出来ればこのまま一緒に過ごしたかったが……任務は仕方がないからな」
「はい…私も今日が終わるまで一緒にいたかったのですけど」
また嬉しい事を言ってくれるな。少し寂しそうな声になった彼女にある提案をしてみる。
「帰宅したら、俺の部屋に来てくれないか? 夜中でも明け方でも構わない。君を待っている」