第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「恋人の君との思い出を形にしたかった」
「形に…ですか」
「そうだ」
彼女の左手を自分の右手と絡める。手を繋ぐと言う行為自体は形には残せない。俺は七瀬に触れるのがとても好きだ。
体を繋げるだけではなく、こうして手を繋ぐ。そう言ったちょっとした事も含めて。
「君が俺の継子になってもうすぐ一年。恋人になって丁度半年。たった一年、たった半年…と言えどもなかなか密度が濃い日々だったように感じる」
「そうですね…。言われてみればそうかも」
七瀬との日々の稽古、師範と継子としての勝負、思いを告げられ恋仲になった星降る夜、初めて二人で出かけた落語、宇髄宅での恋の勝負、桐谷くんの墓参りへ共に行った事、赤坂氷川神社での共闘、初めての喧嘩。
最近は七瀬がわらび餅から新しい型を思いついた事や、橙の爪紅を指先にのせあった事もあったな。
「本当です。今振り返っていたんですけど、確かに濃い日々でした」
ふふっと笑った君が俺を見る。この笑顔が何よりも好きだ。大切にしていきたい。
「これからもよろしくな、七瀬」
「こちらこそ…杏寿郎さん」
互いの笑顔が重なる瞬間を、写真におさめたい物だ。
「甘味が五つ目の贈り物です。帰ったらみんなで食べましょうね?」
「うむ!実に楽しみだ!」
柔らかく吹いた風で自分が持っている黄色のスターチスが、ふわりと揺れる。
真っ直ぐな言葉と視線で渡してくれた恋人からの贈り物だ。克さんに花単体でも写して貰えば良かったな。
この花束が七瀬自身のようだ。そんな事を思案しながら、自宅までの道を彼女と一緒に歩いて帰った。