第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「あ、良い表情ですね。もう二枚程写すよー」
パシャ……パシャ……と写真機の音が響く。昨日とやっている事は同じだが、共に来ている相手が違う。
「それじゃあ次は沢渡さんに座ってもらって、杏寿郎くんはそうだね、椅子の向かって左側に。うん、良いよ。はい撮りまーす……」
パシャ……パシャ……と写真機の音が三十秒の間を経て再び響いていく。
「はい!二人ともお疲れさまでした。杏寿郎くん一人の写真は昨日撮ったから今日はもう終わりだよ」
「ありがとうございます」と七瀬と二人で、克さんに礼を言った。
彼は昨日に続いての来店にやや驚いていたが、恋人を連れて来たと伝えたら快く歓迎してくれた。
そして、写真を撮る際に髪の手直しや着物の着崩れ等を整えてくれたのは奥方の真理子さんだ。
預けていた黄色のスターチスを七瀬に渡すと、気さくに話しかけた。
「昨日あなたもいらっしゃる予定だったのよね。体調はもう大丈夫なの?」
「はい、お気遣いありがとうございます。今朝熱も下がりまして…もう元気になりました」
「それなら良かったわ〜」
七瀬の髪を整えながら、笑顔で答えている真理子さんは何度も俺に目配せをした為、やや落ち着かない気分になってしまった。
「じゃあ出来上がりは…昨日の物と合わせて、一ヶ月半後かな?」
「わかりました。杏寿郎さん、私、受け取りに来ますよ」
「そうか?では頼んだ!」
「はい!」
★
写真館を出て帰路の途中、七瀬がこんな問いかけをして来た。
「どうして私と二人で、写真を撮りたいって言って下さったんですか?……」
「ん?気になるのか?」
「はい、それはもちろん」
人が宝箱を開ける間際。
これは恐らく今の彼女の表情と同じであろう。焦茶の双眸が期待に満ち溢れているからだ。