第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「俺だ。入っても大丈夫か?」
「どうぞ」
朝食が終わり、七瀬と出かける約束をしているので彼女の部屋へとやって来た。
襖の外から声をかけると了承の返事だ。
どんな服装をしているのだろう。
口角が自然と上がった。彼女の姿を見るのが楽しみな証拠だ。すっと目の前の襖を開けてみれば…
む! これはまた示し合わせたようで嬉しいな。
……と言うのは、二人で初めて出かけた際に着用した物と全く同じだったからだ。
俺は濃紺、彼女は橙色の着物。髪を結んでほしい、と結び紐を彼女に渡しながら頼む。
すると、はいと快諾してくれる七瀬。
★
「ありがとうございます」
「君との約束だからな」
俺達は共に町に向かっている。約束、と言うのは頭の上で髪を一つに結んで欲しいと、以前彼女から言われた為だ。
隣にいる恋人は自宅を出る時から、すこぶる機嫌が良い。
好いた異性の愛らしい顔を見れるのならば、これぐらい容易い事だ。七瀬の手元に視線をやると、爪先が暖色系の色で彩られている。
俺は自分の右手を彼女の左手に絡めた。
「どちらも似合っている。綺麗な二色だ」
「…ありがとうございます。嬉しいです」
七瀬の左右の爪には緋色と橙色が交互に乗せられている。これは彼女が自分の髪を結んでくれた後、俺自身が塗った物だ。
自分ではよくわからないのだが、どうやら七瀬が爪紅を塗るよりも上手く塗る事が出来るらしい。
繋いでいない右手を自分の顔の前に翳し、満面の笑顔でそれを見ている七瀬。
さて、今日はどこへ連れて行ってくれるのだろうか。
「この後は何が待っているんだ?」
「さあ、何でしょう。杏寿郎さんは私の考えを把握出来てるんじゃないですか?」