第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「朝からなかなかに凄いな!」
七瀬と共に居間に移動した俺は、朝食にしては豪華な食卓に圧倒されていた。
座卓の上に鎮座しているのは鯛めし、具沢山のだご汁、漬物、そして食卓には出ていないが甘味もあるとの事だ。
甘露寺に師事された七瀬が、千寿郎と共に作ったのだとか。
甘味…甘露寺…自分の誕生日。よもや!! さつまいもを使った菓子か??
冷蔵庫で冷やし固めているので、午後出すと聞いた。冷たき甘味である事には違いない。楽しみにしておくとしよう!
「杏寿郎、誕生日おめでとう」
「兄上、お誕生日おめでとうございます」
父と弟が祝いの言葉をかけてくれた。一体何年振りなのだろう。
こうやって二人から揃って言って貰えるのは。
昨年の今頃は全く予想が出来なかった。あれからこの家に七瀬と言う新しい風が吹き込み、冬のように寒かったわが家の空気は様変わりした。
五月の空気と同様、新緑が眩しく気持ちの良い空気。それが常に満ち溢れている。
「いただきます!」
俺、父上、千寿郎の三人、そして七瀬。四人の声が心地よく合わさった。
弟はだご汁をとても上手く作れるようになったとの事だ。それ故、今回七瀬は千寿郎に全て任せたらしい。
あれはいつだったか、父が弟に「腕を上げた」と言っていた覚えがあるが、俺も本当にそう思う。
鯛めしは七瀬が担当したそうだ。
のせてある鯛は俺の好きな塩焼きで、漬物は日頃から食卓に上がる常備菜。漬物に至っては普段と変わらないと言えよう。
「うまい!!!」
自分が発した声が一段と響く食卓だが、父や弟は顔を綻ばせている。恋人の表情も非常に穏やかだ。
幸せとはこのような事を言うのだろうか。父がいて、弟がいて、それから恋人の七瀬が同じ空間にいる。
ほっと息がつける場所だ。