第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「杏寿郎さん」
「ん?どうした?」
名前を呼ばれると、抱きしめていた七瀬の頭が上がる。深呼吸を一つした彼女は、胸に右手を当て、俺の目をしっかりと見つめながら……
「お誕生日おめでとうございます。今日この言葉を伝えれる事が私、とても幸せです。あなたが大好きです」
祝いの言葉と共に届いたのは、恋人からの柔らかい口付けだった。
一瞬だけの軽い愛撫だ。
彼女の顔が離れていくが、予想外の事をされた為、すぐに反応ができなかった。
「これが一つ目のお祝いです。いくつかあるので楽しみにしていて下さい」
一つ目……? まだ反応出来ない俺に小さな口付けが再度届き、七瀬がゆっくりと抱きしめてくれる。
「七瀬」
「どうしました?」
「二つ目も今貰ったぞ」
「……そうなんですか?」
首を傾げながら自分を見る彼女は、あまり腑に落ちていないようだ。ふむ、わからないものか……。
「思いつかないか?」
「はい……わかりません」
「そうか」
パチパチと瞬きを繰り返す、七瀬の顎をそっと持ち上げる。
目が合うが、不思議そうな表情を浮かべているのは先程と変わらない。ならばハッキリと告げるか。
「熱が下がって、元気になったいつもの君だ」
答えを告げた後、今度は自分から彼女の唇に口付けを贈る。
二、三回啄んで音を小さく鳴らしながら、顔を離した。するとそこには普段と変わらない、愛おしい恋人の笑顔が現れる。
「良いの、ですか? これが二つ目で」
「ああ、無論だ。今の俺には待ち望んだ贈り物だからな!」
左頬を包むと、その感触を味わうように瞳を閉じた七瀬にもう一つ口付けを贈った。