第5章 君は継子で、俺は師範
先程の猪頭少年との手合わせで苦戦していた為、動きに無駄な物が増えて来た。そこへ突きの一手を入れる。すると沢渡は後方に飛びながらも、空中で体を捻りながら着地した。
「はあ、ありが、とう……ござい、ました……」
肩で大きく息をしながらも、俺から目をけっしてそらさない。
紛れもない剣士の双眸だ。
やはり沢渡の両の瞳は好ましいな!
互いに一礼をし、顔を上げた所でようやく継子の表情が柔らかくなる。
「師範は本当に容赦ないですよね」
「遠慮などしていたら、稽古にならんからな!!」
ふふっと笑う彼女はあっという間に継子から、普通の女子に雰囲気を変える。瞬間、どくんと心臓が心地よく跳ねた。ここ最近の自分は沢渡のふとした仕草に心がよく動く事が多い。
段々と色恋事に疎い俺でもある一つの結論に達してしまいそうになるが、それに蓋をし、心の深い場所へと沈めた。
自分は彼女の師範だ。あくまでも沢渡は継子である。
「師範?どうしました?」
継子はこちらの胸中など何も知らずに、問いかけて来る。
「いや、何でもない。そろそろ昼餉の時間になるな。今日はこれで終いにしよう!」
残暑の太陽から受ける光を振り払うように、俺は皆(みな)に声をかけた。
「やったあー!ようやく焼き芋だよ……っておい!バカ猪、横取りすんな!!」
「ふははは!こんな美味い焼き芋は初めてだぜ!」
「善逸!伊之助!食べながら立ち上がるのは行儀が悪いぞ!」
少年達のやりとりを見ながら、沢渡はほほえましい笑みを浮かべていた。