第5章 君は継子で、俺は師範
「え?あの、師範?私もですか?」
「そうだ。早く用意してきなさい」
自分の右斜め前で立ち尽くしている沢渡は自分もか?と言葉と視線で訴えて来るが、俺が肯定の返答をするとふう……と長いため息が彼女の口から放たれた。
その横で自分も参加したい意思を目で訴えている弟。
一緒にやるかと問いかけると、その大きな両目はみるみる内に輝きを増した。
「はい!」と頷いた千寿郎を見た沢渡はやや急ぎ足で、六人分の木刀を取りに行く。
俺は彼女の手合わせ相手を猪頭少年に指定した。
彼はあの猪の被り物を被っている故、目線から次の動きを予測する事が難しいだろうと判断した為だ。そして二刀流。
予測力を向上するには充分すぎるだろう…と思った通り、なかなか苦戦していた。それでも沢渡は戸惑いながらも対応した。ふむ、ならば地稽古もいつも以上に攻めてみよう。
「どうした、沢渡!!もうバテたか!」
「………!はあっ、まだ……ま……」
継子は普段そうでもないが、こうして剣を握ると闘争心を全面に出してくる性質らしい。煽れば煽る程、俺に対して攻撃の手数が増える。
悪い事ではないが、頭に血がのぼりすぎるのは禁物だ。
心は熱くても良い。
だがその分頭は冷静に。柱となった時より、自分が普段から気にかけている事だ。
『怒りで視野が狭くなっているぞ、煉獄』
そして佩狼(はいろう)との戦い時に、指摘された過去を思い出す。