第5章 君は継子で、俺は師範
「沢渡、少し良いか?」
「あ、はーい。どうぞ……」
先程の稽古終わりに彼女宛の手紙 —— 果たし状が一部廊下に落ちていた為、届けにやって来た所だ。
襖を開けると、何やら文机に向かって書き物をしていた。
「ありがとうございます、この人は特にしつこい性質なんです。だから優先的に対応しないといけないので、助かりました」
「よもや、全員に返事しているのか?」
先程確認した所、ニ十人以上はいたはずだ。
「いえ、それは物理的に難しいので……この方のようにどうしても手合わせしたいのかな?って感じた物を中心に返事をしています」
「む?それは何だ?」
「あ、師範にはお話しておきますね」
文机の右横に置いてある和綴じの冊子。表紙に”呼吸の記録帳”と記してある。どうやら沢渡が俺の元で稽古を始めて以降に書き始めた物のようだ。
「炎の呼吸は指南書が三冊あるから、どうしようかなあとも考えたんですけど……まずは自分の記録としても残しておこうかなって」
はい、と冊子を渡してくれたので書き込んである頁に早速目を通す。そこには壱ノ型と弍ノ型について沢渡が感じた事が書いてあった。
「炭治郎が鱗滝さんの元で修行をしていた時、日記をつけていたんです。だから書いておくのも良いなあと」
竈門少年は沢渡の弟弟子だ。故に二人は水柱の冨岡と同門でもある。
「確かに彼は筆まめだな!俺にもよく手紙をくれる」
「炭治郎は師範の事を物凄く尊敬しているんです。あ、これは私もですけど」
「ありがとう、光栄な事だ!」
それから沢渡に「任務に遅れてしまいます!」と指摘されるまで、二人で話し込んだ。やはり継子と話すのは楽しいな!時間の流れ方がどうも違う。
「いってらっしゃい、師範!お気をつけて」
「君もな!」
門扉で声をかけあい、互いに違う方向へと歩き出す。少し歩いた所で振り向くと、夕日が彼女を照らしていた。
——無事に帰って来てくれ、俺も必ず戻る。
日輪刀の柄を左手でグッと握り、右足をまた一歩踏み出したのだった。