第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
そして次の日。
五月十日、今日は誕生日当日だ。
昨晩の任務は日付が変わる前に終わったので、今朝は稽古が出来た。七瀬は体調不良の為、もちろん一人で取り組んだ。
彼女が我が家にやってくる前、当たり前のようにやっていた事だが、どこか物足りない気分だ。
あれから七瀬の熱は下がっただろうか。
柔軟を早めに切り上げ、汗を拭いた後は彼女の部屋へ向かう。
襖を静かに開き、七瀬がまだ寝ている姿が確認出来た。
『入るぞ』と心の中で声をかけ、足音を立てないように入室した。
布団の傍らに座り、七瀬の右手をそっと握る。
昨日より熱くない。これは……熱は下がったのか? 思案していると部屋の外から雀が鳴く音が耳に入って来る。
握ったまま、しばらく彼女の様子を見ていると…
「……?」
「おはよう、七瀬。具合はどうだ?」
恋人の瞼がぴくと動き、ゆっくりと目が開けられていく。
俺は昨日と同じように、両手で彼女の右手を包みながら問いかけた。
「おはようございます……いつからいらっしゃったんですか?」
「ほんの十分前からだ」
うむ、間違いない!
顔色も良くなっているし、いつもの七瀬だ。笑顔になった俺を見て、彼女も笑ってくれた。
そのまま盆に置かれている体温計を、左脇下に挟んで体温を計っていく。確信はあるが、それでも鼓動が早くなるのを感じながら、時間が過ぎるのを共に待つ。
彼女が体温計を脇下から取り出した。どうなのだ!?
「あ…下がりましたよ」
起き上がった七瀬は俺に、三十六度三分の線を示している赤い水銀を見せてくれた。
「そうか、良かった!」
握っていた右手をグッと自分に引き寄せ、抱きしめた。
普段通りの心地が良い体温だ。背中に七瀬の腕が回った。気分が高揚した俺は、更にぎゅうと彼女を抱き寄せる。