第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「杏寿郎さん……」
「何だ?」
七瀬が右手を伸ばして来た。やはり心細かったのだろう。そう判断した俺は両手で彼女の手をしっかり握った。
すると、目元と口元が柔らかく緩む。
「お願いです…しばらくこうしてて下さい……」
「ああ、わかった。ゆっくり休め」
「はい……早く……元気に…ならな……」
徐々に七瀬の瞼が閉じて行き、完全に寝入ってしまった。
『眠ったようだな』
右手で七瀬の左頬を包むと、柔らかく撫でる。俺がこの部屋に来た時よりも顔色が良くなった気がする。
そう思いたい。
ほっと安堵の息を漏らした後、目を閉じている恋人にそっと口付けを一つ落とした。
『任務に行く準備をせねば…』
その時、襖の外から控えめに声がかかった。弟が買い出しから帰って来たようだ。
「兄上。七瀬さんの様子はその後如何ですか?」
「粥は全て食した。明日には元気になるやもしれん」
「良かった……」
静かに部屋に入って来た千寿郎は俺の返答を聞いて、少しホッとしている。
「明日の為に色々と準備されていました。一ヶ月前から一緒に計画をたて始めたんです。食べる物だったり、贈る物だったり…」
「ああ、知っている。七瀬は隠し事ができないからな」
ここ一ヶ月の恋人の様子を思い出してみる。
見つかりそうになって焦る七瀬はとてもかわいらしかった。
「早く元気になってほしいです」
「そうだな……千寿郎、俺は今夜の準備をしないといけない。すまないが、後は頼めるか?」
「はい、大丈夫です。兄上はご準備を」
「ああ、ありがとう」
弟に礼を伝えた後、七瀬の右手をもう一度両手でゆっくりと握る。
『元気になったら、また君の笑顔が見たい』
そうして俺は彼女の部屋から退室した。