第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
「七瀬」
「杏寿郎さん、嬉しいんですけど、うつしたら大変ですから…」
名前を呼ぶとほぼ同時に彼女を抱きしめた。俺の腕の中から逃れようとする七瀬だ。しかし…
「簡単に病をもらうほど、ヤワな体ではないぞ?」
「いや…それはそうかもしれませんけど……」
一度抱きしめたのだ。離すわけがないだろう。ぎゅうと更に体を寄せると、ようやく彼女は観念し、ゆっくりと俺の背中に腕を回した。
この広い家に一人、体調が悪い中過ごすのは心細かった事だろう。何も言わない七瀬だが、きっとそれは間違いではないはず。
「………」
「杏寿郎さん…?どうしました?ん……」
右手で恋人の顎をそっと掴み、ちうと啄む口付けをしてみる。案の定「うつります」と抵抗をし、二人の顔と顔の間に右手を入れてくる。
しかし、その手は俺が左手で絡め取ってやった。
「ダメか?」
「ダメです。柱が体調を崩したら大事(おおごと)ですから。それに…」
「ん? 何だ?」
「今の状態で口付けされると、熱上がっちゃいます…」
よもや!
「む、それは困るな」
「はい…だから元気になってからならいくら…」
ほう、これは何とも嬉しい返答だ。
「いくらでもか?」
ぼうっとした表情をしている彼女の左頬を柔らかく撫でると、ほう……と息をついた。
「すみません…本当に勘弁して下さい……」
顔の表面温度が一気に上がったらしい。
真っ赤に染まった顔を俺に向けた七瀬の瞳が一瞬だけ閉じられてしまった。
「わかった、ではもう横になると良い」
「はい……」
彼女の背中と肩を支え、再び布団に寝かせた俺は、続けて七瀬の額に氷嚢を乗せてやる。