第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
真上から覗きながら、七瀬の様子を伺う。
「あ…お帰りなさい…はい、今なら少し食べれるかもです…」
額に乗せていた氷嚢を布団の横に置き、起き上がろうとする彼女だが、まだ辛そうだ。咄嗟に背中を支え、介助した。
「ありがとうございます…」
礼を伝えながらこちらを向いた七瀬の顔色は、やはり今朝よりも良さそうだ。安心した自分の口元が少し緩む。
小さな土鍋の蓋を開けてやると、黄色い粥が姿を現した。
うむ、玉子も頃合いよく粥と馴染んで美味そうではないか。茶碗と匙(さじ)を渡し、七瀬は「いただきます」言って食し始めた。
「美味しいです! 熱すぎず、丁度良い温度ですね」
「そうか!ならば良かった…」
千の味付けには間違いがない。
それはとうにわかりきっている事だが、彼女の口に入るまではやや懸念をしていた。
何故なら先程 ———
「杏寿郎さん」
「どうした?」
数口食べ、小さな笑顔を見せた七瀬が突然話しかける。
「卵、割ってくれました?」
「む……何故わかった?」
「殻がほんの少しだけお茶碗に入ってました。千寿郎くん、卵割るの凄く上手だから、あれ?って…」
まいった。弟がそこまで抜かりないとは……。
ここで否定するのも滑稽だ。俺はそうだと正直に伝える。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
自分は卵を割って入れただけなのだが、彼女の笑顔が見れるのはやはり気分が良い。
「ご馳走さまでした。すっごくすっごく美味しかったです」
「作ったのは千寿郎だぞ?」
「それはそうなんですけど。卵を落としてくれたのは杏寿郎さんです。私はそこが一番嬉しかったです」
先程よりも鮮やかな笑みを見せる七瀬が、愛おしい。
労わるように頭を撫でた後、茶碗を彼女から受け取って盆に置く。