第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
真理子さんが色恋に聡い、と言うのはどうやら本当らしい。
見事に言い当てられてしまった。
ふふふと上品に笑う彼女は実に楽しげである。
写真館を後にする際、俺と七瀬二人で写真が撮れるよう特別枠を設けた。
なので都合が良い時にいつでも来店を…と夫妻に声をかけられた。
父と弟は来店時と同じく、顔を見合わせて目配せをしている。
そうか、あの時これを伝えてくれたのか。
歩き出した矢先に二人に礼を言うと、当たり前の事だと力強く言い切られてしまった。
恋人である七瀬が自分の家族にも大切にされている。
ややこそばゆくも感じるが、とてもありがたい。早く彼女に会いたい。体調が悪い故、寄り添うぐらいしか出来ないだろう。
それでも俺は七瀬の近くにいたい。
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自宅に着き、早速七瀬の部屋に向かいたい所だが、腹をすかせて目覚めているかもしれない。
弟がそんな事を言った為、粥を用意した。
と言っても、千寿郎が作った粥の中に俺は割ってといた卵を入れただけだ。弟も様子を見に行きたいと申し出た為、二人で彼女の部屋へと向かう。
小さな土鍋によそってあるので、しばらくは冷めないだろう。
襖から声をかけたが、返答がなかったので無言で入室した。部屋の中央に布団が敷かれており、そこに氷嚢を額に当てた七瀬が横になっている。
「まだ起き上がっていないようですね……」
「ああ、しかし今朝方見た時より呼吸は苦しくなさそうじゃないか?」
スウスウと比較的穏やかな寝息は、朝見られなかった物だ。
水差しと共に薬が置かれている。俺達が出かけた後、医院に行ったのだろう。
「ではこれから夕食の買い出しに行って来ます」
「ああ、わかった。俺はもう少しここにいる」
千寿郎が部屋から退出すると、僅かだが七瀬のまぶたが震えた。それからゆっくりと目が開いていく。
「目が覚めたか?玉子粥を持って来たのだが、食欲はあるか?」