第5章 君は継子で、俺は師範
「懐かしいな」
「懐かしい、ですか?」
「ああ」
選別で共に生き残った同じ歳の少年に言われた事、死にゆく仲間達から受け取った指文字、初めての任務に行く前、千寿郎に言われた事。
これらの出来事を経て『君たちのような立派な人にいつかきっと俺もなりたい』と思ったのだ。
「………なってますよ。充分すぎるくらいに」
「そうか?」
「はい!」
沢渡は目から涙を少し滲ませながらも、はっきり頷いて返事をしてくれた。
「師範。特別稽古なんですけど、是非お願いします」
「了解した。ではよろしくな」
俺は最後の焼き芋を手に取って半分に割って「ほら」と沢渡に渡す。
二人で焼き芋を食べ始めたのだが、俺はさつまいもを食すと神輿を担ぐ時のかけ声を口から出してしまう。これは無意識にやっている事らしい。
「わっしょい!!わっしょい!!」
「師範のわっしょいを聞くと、元気が出ます」
「そうか!であれば良かっ……わっしょーい!」
「兄上、七瀬さん、お疲れさまです」
俺と継子がそんなやりとりを交わしながら焼き芋を味わっていると、廊下の奥から弟がやって来た。
「どうした?千寿郎」
「これをお持ちしたんです。小町さんの元に届いたお手紙です」
「ありがとう」
沢渡はお礼を伝えた後、千寿郎の両掌に積まれた束を確認していく。
「なかなかに凄い量だな」
「はい、そうですね」
慣れているのか、彼女は特に気にする事もなく文を一通一通開封していった。
「殆どが男性隊士からの果たし状です……」
「そうなのか?」
少し驚いてしまった。
「はい、師範の継子になってから急増しまして……」
何枚かを彼女から受け取り、どれ……と言いながら目を通す。
【勝負しろ。次こそお前に勝つ】
【沢渡、俺はお前を炎柱の継子とは認めない!】
ほう、これはなかなか面白い事になっているな。
「師範は男性隊士から凄く慕われていますからね。女の私が継子をしている事を面白く思わない—— そんな人達も隊士の中にいるんですよ」
「ふむ、そうか?……しかし、沢渡。君が負ける事はないのではないか?」