第5章 君は継子で、俺は師範
「えっ?呼吸を使った特別稽古ですか?」
「ああ」
継子が最後の一口の焼き芋をゴクンと飲み込み、茶を啜る。
「君が継子になって三ヶ月。型も一通り取得しただろう?どの程度の腕前になったかそろそろ見ておきたくてな」
「はあ……」
む?反応が薄いな!何故だ!
「あの、特別と言う事は煉獄って使われる予定とか……は?」
彼女が恐る恐る声を発し、焦茶の双眸は戸惑いが浮かんでいる。
それを見た瞬間、とある思いが自分の胸中にポンと浮かんだ。
何なのだろう、彼女を揶揄したくなるこの気持ちは。
「使うやもしれんな?」
「いや……それだけは勘弁してください……」
含み笑いをしながらからかいを含めた声色で伝えると、彼女は半分泣きそうになりながら、目線でも訴えて来る。
……やはり愛いなあ。
まただ。何故沢渡に対してこんな感情を抱くのだ!
「はあ」と継子がやや重たいため息をつく。
俺は彼女と鍛錬を開始してから思い始めていた事を口にした。
「以前から思っていたのだが……」
「はい……」
何を言われるのだろう。少し不安げな思いを携え、両の瞳をこちらにじっと向けている。
「君は自分を過小評価しすぎではないか?もちろん謙虚であると言うのは良い事だが」
「そうなんでしょうか」
「ああ」
ここで俺は湯呑を持ち、その中に入っている茶を一口啜った。
「沢渡、君は二つの呼吸が使えるようになった。
これは本当に凄い事だ。水と炎は対照的。そして心の持ち方、呼吸の出し方が全く違う。使いこなすには努力もだが、技術も必要だ。万人が出来る事ではない」
一旦言葉を切り、沢渡の顔を覗き込む。すると焦茶色の双眸が一瞬大きく見開かれた。
「この三ヶ月、誰よりも君を近くで見てきたのは俺だぞ?予想以上の成長具合で、本当に良い継子を持てたと心底思っている。だから…もっと自分を信じてみてはどうだ?過信はもっての他だが、ある程度の自信を持つ。これは剣術だけではなく、何にでも必要だからな!」
「ありがとうございます……」
気のせいだろうか。継子の顔色が赤い。
うむ!照れる顔も良いものだな。胸の中にほくほくとした感情が沸き上がったところへ———
「私も師範みたいになりたいです!」
俺みたいに、か。
沢渡がそんな事を言って来たのだ。