第27章 よもやのわらび餅
「……君からますます離れづらくなる」
コツンと互いの額が当たると、そこから七瀬の体温が自分にもじわっと広がっていく。
いつの間にこんなに彼女を好きになったのだろうか。
「は……」
「ん?」
七瀬、君は何を伝えようとしてくれたのだ?
答えを求めるように彼女の両頬をゆっくり撫でるが、何でもないと言われてしまい、やや心が萎んでしまった。
『離れないで欲しい』
俺は内心君がそう伝えてくれるのを期待していた。
しかし、聞いてしまえば彼女の温もりを求めてしまう。言ってくれなくて良かったのだ。そう強く言い聞かせて額を離した。
「よし、そろそろ千寿郎が呼びに来る頃だろう」
「そうですね。私も厨(くりや=台所)に向かいます」
互いに立ち上がると、俺は襖を開ける。
「爪はそのままで良いのか?」
「…はい、緋色と一緒に任務に向かいます。赤は魔除けの色とも言いますし!」
「そう言えばそんな事を聞いた事がある」
古来より赤と言う色は太陽の力や血液の力が宿り、魔よけの意味があるとされているのだ。
「杏寿郎さんは髪にも羽織にも…それから、脚絆と瞳の色にも赤が入っているからたくさんありますね」
「言われてみればそうだ」
「日輪刀も赤いから、”魔”を斬る刀」と七瀬の発言に、それは君も同じだと突っ込みを入れる俺。
「私は元々空色だから少し違うと思いますけど…あ、でも炎の呼吸に切り替える際に赤くなるから、該当するでしょうか?」
そうだな! 七瀬は水から炎へと呼吸を切り替える際、刀が赤く染まる。
「炎の呼吸は”魔”を斬る呼吸」
「ほう」
「厄災を払うと言う事で、どんど焼きやお焚き上げをやる風習があると聞きました。その際に炎を使いますよね」
「そうだな」
自分はそんな呼吸が使えているのだ。そう思うと凄く誇らしい。嬉しい事を言ってくれる彼女に俺の顔にも笑みが乗った。
「それと…すみません、耳を近づけてもらえますか?」
「ん?こうか」