第27章 よもやのわらび餅
「七瀬、早速で悪いが見せてもらいたい。良いか?」
「わかりました」
して、技の名前は? —— 続けてそう質問すると恋人はこう応えた。
「…………心炎突輪(しんえんとつりん)です」
★
それから俺達四人は庭に出て来た。
一足先に着物から隊服に着替えた七瀬は、自分の日輪刀を腰に携え、父と自分と弟の前にスッと立つ…が。
「杏寿郎さん、すみません。いつも指導を受ける側なので、私物凄く緊張しています…」
ガチガチに強張った肩、それから地面にきっちりと縫い付けられたような足底。彼女は今にも泣き出しそうな顔で訴えて来たのだ。
「うむ、確かにその状態では出来るものも出来そうにないな…ではまず深呼吸三回!」
「は、はい……」
俺が言った通りに三回実行するが、まだまだ体も気持ちも硬いのは一目瞭然。父も弟も彼女を心配する気配を纏ったままだ。
「次は…これだな」
胡蝶との対戦時と同じように、彼女の肩を二、三回回揉み解してやるとようやく余分な力が抜けて来た。後もう少しか ——
「よし!どうだ?」
「ありがとうございます!いけそうです」
仕上げに両手をポンと細い肩に置いてみれば、今度は顔にも笑顔がのる。
「では頼む…」
「はい」
茜色の日輪刀が群青色の鞘から引き抜かれる。
七瀬は両手に持ち、胸の前で構えると両の瞳を閉じた。深い深い呼吸が口から一つ流れる。
自分とは違う種類の静かだが、芯は太い闘気。それが彼女の足元かじわじわと浮上して来た。
開かれた両目にもしなやかな炎が浮かんでいる。
「炎の呼吸 ——— 」