第27章 よもやのわらび餅
「お二人もわらび餅を買って来るなんて……本当にびっくりしてしまいました」
「俺もだ!」
七瀬は土産として俺と父上が買って帰る前に、あの店で食事をして来たそうだ。彼女は抹茶のわらび餅を、自分達は黒蜜を持ち帰っている。
「俺はきなこは食べた事があるんですけど、抹茶と黒蜜は食べた事がなくて。だから一度に二つの味が楽しめて幸せです」
千寿郎は抹茶粉がかかったわらび餅を口に入れた。美味しいです!とこちらも溢れるような笑顔を見せてくれた。
「私、お店ではきなこを食べたんです。食べなかった抹茶か黒蜜で悩んだんですけど、なんとなく抹茶かなあ……って」
「父上が黒蜜が食べたいと希望でな。俺も黒蜜の気分だったのでこれに」
「おい……俺は食いたいとは一言も言ってないぞ」
「しかし、美味そうだとはおっしゃいました!」
俺がハハハと笑えば、父の瞬きの数が増す。
そして頬が赤く染まる様子を見た七瀬と千寿郎は、二人笑顔で顔を見合わせた。
ここは煉獄家の居間だ。皆(みな)でいつも食事をする場所。
自分の対面に七瀬、その左には千寿郎。父は俺の左側に座っている。
決まっているわけではないが、何故かいつもそれぞれがこの場所を選び、この位置に座るのが定番となっている。
「ここのわらび餅は絶品と聞いてて、ならばぜひ一度はと思っていたんだ。しかし、なかなか行く機会がなくてな。今回ようやく叶って俺も嬉しい」
やはり食したかった父は自分の本音を吐露した事には気づいていない。
黒蜜がかかったわらび餅を器用に楊枝で掬い、口に入れた。すると途端に笑顔になり、美味いなと漏らす。
そして俺はと言うと……
「うまい!!!」
黒蜜がかかったわらび餅を二人と同じく口に入れると、ふふっと七瀬が笑った。