第5章 君は継子で、俺は師範
「兄上、七瀬さんと蜜璃さんを同じように捉えないで下さいね。お二人の筋肉量は違いますよ?その辺りをよく考えて稽古なさって下さい」
「む…!」
また弟に言われてしまった。不甲斐なし!
その後は継子を背負い、布団に寝かせた後は自分の鍛錬を開始した。それから二時間後、慌てた様子で沢渡は俺の元にやって来る事になる。
「師範、申し訳ありません……!もう一度お願いします!」
「うむ、良いだろう!!」
二度目の地稽古開始直後の事だ。
バシッ —— !!
「よもや、またか」
「………」
一撃目はかわした沢渡だが、今度は三撃目で再び気絶してしまった。しかし、今回は十分後に目を覚ます。
「お願いします!」と向き合って来る彼女の目は剣士のそれだった。
「では参るぞ!」
★
残暑がまだまだ厳しい九月——
沢渡が俺の継子になって、三ヶ月が過ぎた。
どうやらすぐに音をあげるだろうと他の一般隊士達に思われていたようだ。しかし、周囲が彼女を見る目が少し変わって来たように思う。
これは継子の鎹鴉である、小町殿がこっそりと教えてくれた。
自分は彼女の相棒から信頼されるようになったらしい。
相変わらず腕相撲は俺に全く勝てないが、筋力が日々の稽古で少しついて来たのだろう。以前と比べ、刀や木刀を振る動作に無駄がなくなった。
“刀は硬く握っていると敵に素早く反応する事が出来ない。普段は余計な力を入れずに持って、斬りこむ瞬間にグッと力を入れろ”
俺が稽古を始めて間もない頃に沢渡に伝えた事だ。呼吸の型は見取り稽古で一通り掴んではいたが、やはり筋力が物を言う呼吸。
自分が放つ炎の勢いに負けてしまう事も多々あったが、それにも耐えれるようになった。
それと ——
水の呼吸へ切り替える際に負荷がかかり、かなり動きづらそうにしていた。しかし、筋力がついた事によりこれらにも耐えれるようになった。
更に嬉しい副産物が。
優秀だと評判の胡蝶の継子 —— 栗花落少女から一本を取る事も増えて来た。
師範冥利に尽きるとはこの事だろうか。
一日分の稽古を終え、甘味・お茶と供に縁側へ横並びに座る。そして修正点や良かった所を二人で振り返っているとこんな提案が脳内に浮かんだ為、俺は彼女に問いかけた。