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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第25章 緋(あけ)と茜、初めての喧嘩




『どうすれば、良いのだろうな』


稽古以外、口を聞かなくなり三日が過ぎた。千寿郎も父も俺と七瀬の間に何かあったと気づいてはいるようだが、二人が俺や彼女に何か言ってくる……と言う事はない。

父も千寿郎も人の感情を察する事は上手だ。それ故にあえて黙っていてくれるのだろう。俺は今まで感じた事がない気持ちを味わっている。


鬼殺をしていて、倒した鬼達に罵詈雑言を吐かれた事はある。死に際だったり、戦闘の途中だったりと様々だが、こんな事は取るに足らない。

向こうは自分の事を「己の頸をただ狙う鬼狩り」としか認識していないからだ。ただそれだけの事。


しかし……七瀬は違う。
俺の心をいつもあたたかく、穏やかな気持ちにさせてくれる。時にはハッとさせられたり、心配になる事もあるが、これらは彼女が自分にいつも思いをぶつけてくれるからだ。


「杏寿郎さんが大好きです」

「また意地悪しましたね!! 酷いです…」


笑顔の七瀬、少し憤慨した七瀬の顔が脳内にポン、ポンと思い浮かんでは消える。
もうあの愛らしい笑顔は見れないのだろうか。鬼殺時では考えられないぐらいの迷いが全身を包む。


ああ、そうか。
これが”寂しい” と言う感情なのか。当たり前のように自分の隣にあった恋人のぬくもりが。それが今は遠い。

少し気分を変えよう。ふと思い立った俺は湯浴みをするべく浴室へ向かった。









引き戸を開けようと思った瞬間、目の前の扉が開いた。続いて自分の胸に覚えのある感覚が勢いよく届く。


「……痛い」


思い切り顔を歪めている七瀬だった。直撃したのであろう鼻をさすっている。愛おしさを感じた。

……抱きしめたい。
しかし、今の俺がそんな事をしてもきっと君は嫌がるだろうな。
見上げてくる恋人と視線が合う前に「すまない」と言葉を紡ぐ。

絞り出すように発した俺は、踵を返して早く立ち去ろうとした。


すると ———

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