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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第25章 緋(あけ)と茜、初めての喧嘩



七瀬の眉間に皺が寄った。あまり見る事のない表情だ。
彼女のやや困った顔が見たい為、加虐心を持った行動をした際に見せる顔とは全く違う。

伝わって来るのは”嫌悪” それだけだ。


「沙希に聞きたい事って…何ですか?」

「大した事じゃない」


棘が刺さるような問いかけに、普段からはおおよそ考えられない、そっけない返答が口から出る。こんな事は言いたくないのだが…。


「私には言えない事なんですね」


違う……! そうではない!
更に七瀬の眉間に皺が深く刻まれ、俺に掴まれている右腕を振り解こうとする。
離せない。今離してしまえば、きっと取り返しがつかなくなる。
態度ではなく、言葉できちんと伝えねば。


「すまない、詳しくは言えないが……決して君が考えているような事ではない」


恐らく俺と藍沢少女の間に何か恋慕のやりとりでもあったと思っているのだろう。この時贈り物をしたいから、彼女に相談したと。
言っておけば ———


「……杏寿郎さん……です」

「ん?よく聞こえないんだが……」

きっと俺が耳に入れたくない言葉であろう。しかし、聞かないわけにはいかない。七瀬の気持ちを、恋人の思いをしっかりと受け止めたいからだ。


「杏寿郎さんなんて、大嫌いです!」

「………!」

……だい、きら、い?………

「あ……」

飛び出たのは普段七瀬が伝えてくれる物とは、正反対の言葉だった。

父が塞ぎ込んでいた時、数々の罵声を浴びせられた。
当然気持ちの良い行為ではなかった。しかし剣士になると言う明確な決意があった故、それらは耐える事が出来た。


今は違う。胸の中が鋭利な刃物で切り付けられた時のように、ズキズキとした痛みが存在している。

気がつくと俺の前から七瀬は消えていた。
掴んでいた右手を離した事も、おやすみなさいと声をかけられた事も、覚えてはいるが輪郭がぼんやりとしている。


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