第4章 茜の炎が芽吹く時
お館様と沢渡少女が会話を交わす中、俺は静かにその様子を見ていた。
「巧の事はとても残念だったね。本来ならここに来て鳴柱の襲名をしているはずだったのだけど」
「………」
「きっとみんなに慕われる鳴柱になっていたと私は思うよ」
「そのようにおっしゃって頂けて私も嬉しいです。ありがとうございます」
彼女がそう返答すると同時に、小さな肩がやや揺れ、目尻に涙がたまっているのが自分の位置からも確認出来た。
皆に慕われる、か。確かにお館様の言う通りだな。俺も彼の穏やかだが、芯の強い所は好きだった。
さて、そろそろ今日の目的を聞かねば。
「お館様、他の柱の姿が見えないようですが」
ここにやって来た時から感じていた疑問を当主に問う。すると……
「ああ、杏寿郎、実は先程もう柱合会議は済ませたんだよ。君には個人的にお願いしたい事があってね」
「……と言いますと?」
会議が終わった?そして個人的な頼みとは何なのだろう。脳内を疑問符が至る所から駆け巡っていく。
「七瀬、杏寿郎には話しているのかな?」
「いえ、申し訳ありません。行き違いがありまして……まだ……」
行き違いとは何だ?!
先程の彼女とのやりとりと関係しているのか。
「わかったよ。それじゃあ度々で申し訳ないのだけど、また日輪刀を見せてくれないかな?」
お館様は柔らかく微笑むと、沢渡少女へ抜刀するように促した。
「はい。それでは失礼致します」
日輪刀?………どう言う事なのだろう。
彼女はゆっくりと立ち上がると、腰にさしている日輪刀を静かに抜刀する。そしてそのまま両手で持ち、己の目の前に構えた。
「!……これは……」